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津地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決

原告

松葉謙三

右訴訟代理人弁護士

出口崇

被告

三重県知事

北川正恭

右訴訟代理人弁護士

楠井嘉行

橋本勇

右指定代理人

鈴木邦子

外七名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求

一  被告が原告に対して平成八年七月二二日付でなした別紙文書目録1記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

二  被告が原告に対して平成八年九月二日付でなした別紙文書目録2記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

三  被告が原告に対して平成八年九月二日付でなした別紙文書目録3記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が、三重県情報公開条例(平成九年三重県条例第四九号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)二条一項に定める実施機関である被告に対し、三重県議会(以下「県議会」という。)事務局総務課の食糧費の支出命令書等、県議会議員の県政調査研究費交付金の公費支出に関する一切の書類並びに三重県警察本部(以下「県警察本部」という。)警務部総務課、会計課及び警務課の食糧費の支出命令書等の開示請求を行ったところ、被告が開示請求書を受理できないとして非開示処分をおこなったと主張して、非開示処分の取消を求めている事案である。

一  争いのない事実

1(一)  原告は、三重県内に住所を有する県民である。

(二)  被告は、本件条例二条一項に定める実施機関である。

2  本件条例には以下の各規定がある。

第一条 県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進することを目的とする。

第二条 この条例において「実施機関」とは、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会及び公営企業管理者をいう。

2  この条例において、「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び磁気テープであって、実施機関において管理しているもののうち次の各号に定めるものをいう。

(1) 文書、図書及び写真については、決裁又は供覧の手続を終えたもの

(2) フィルム(マイクロフィルムを除く。)及び磁気テープ(電子計算機磁気ファイルを除く。)については、決裁又は供覧に準ずる手続を終えたもの

(3) マイクロフィルムについては、決裁又は供覧の手続が終了した文書を撮影したもの

(4) 電子計算機磁気ファイルについては、実施機関が現に有するプログラムによって出力できるものであって、決裁又は供覧に準ずる手続を終えたもの

3  この条例において「公文書の開示」とは、実施機関が公文書を閲覧若しくは視聴取に供し、又は公文書の写しを交付することをいう。

第五条 次に掲げるものは、実施機関に対して、公文書の開示を請求することができる。

(1) 県内に住所を有する者

第六条 前条の規定により公文書の開示を請求しようとするものは、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。

(1) 氏名又は名称及び住所又は事務所若しくは事業所の所在地並びに法人その他の団体にあっては、その代表者の氏名

(2) 開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項

(3) 前二号に掲げるもののほか、実施機関が定める事項

第七条 実施機関は、前条に規定する請求書を受理したときは、当該請求書を受理した日から起算して一五日以内に、開示の請求に係る公文書を開示する旨又は開示しない旨の決定をしなければならない。

3  実施機関は、第一項の決定をしたときは、速やかに当該決定の内容を書面により請求者に通知しなければならない。

4  実施機関は、前項の規定により請求に係る公文書の全部又は一部の開示をしない旨の通知をするときは、同項の書面に開示しない理由を記載しなければならない。

3  原告は、被告に対し、平成八年七月一一日付けで、別紙文書目録1記載の公文書(以下「本件文書1」という。)、平成八年八月一九日付で別紙文書目録2の公文書(以下「本件文書2」という。)及び別紙文書目録3の公文書(以下「本件文書3」という。)の公文書開示請求書(以下「開示請求書」という。)を提出した。これに対し、本件文書1に関する開示請求書は平成八年七月二二日付で、本件文書2及び本件文書3に関する開示請求書は平成八年九月二日付で、いずれも受理できないとの理由で原告に返却された。

二  主たる争点

1  被告は、原告に対し、本件文書1ないし3(以下「本件各文書」という。)の非開示処分をなしたか。

2  本件各文書は、本件条例二条二項にいう「公文書」に該当するか。

(一) 本件各文書は「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び磁気テープ」といえるか。

(二) 本件各文書は「実施機関において管理しているもの」といえるか。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(非開示処分の有無)について

(一) 原告の主張

(1) 被告は、平成八年七月二二日付けで本件文書1につき、平成八年九月二日付けで本件文書2及び本件文書3につき、開示請求書を受理することができないとし、本件各文書をいずれも開示しないとの処分を行った。

(2) 本件文書1及び本件文書2について、原告は被告に対し開示請求をしたのであって、県議会に対し公文書の開示を請求したものではない。被告は、原告の開示請求をいずれも受理しなかったが、不受理は処分ではないとすると、開示請求を受理されなかった者は争う方法がなく不合理であるから、仮に請求された文書が存在しない場合でも被告は開示請求を受理して非開示処分をすべきであって、不受理は非開示処分に含まれる。

(二) 被告の反論

以下のとおり、被告が、原告に対し、本件各文書の非開示処分を行った事実はない。

(1) 本件文書1について

原告は、県議会に対し、平成八年七月一一日、本件条例に基づいて、本件文書1に関する開示請求書を提出したが、県議会は本件条例二条一項にいう情報公開の実施機関ではないので、県議会事務局総務課長が、同月二二日付けで右開示請求書を原告に返却したものであって、被告は本件文書1について非開示処分を行っていない。

(2) 本件文書2及び本件文書3について

原告は、被告に対し、平成八年八月一九日、本件条例に基づいて、本件文書2及び本件文書3に関する開示請求書を提出した。被告は、原告の開示請求書の記載内容から、本件文書2及び本件文書3が、それぞれ県議会及び県警察本部の管理するものであると判断し、開示請求を受け付けた三重県生活文化部生活文化政策課長(以下「生活文化政策課長」という。)が右開示請求書を県議会及び県警察本部に送付した。

生活文化政策課長から、本件文書2の開示請求書の送付を受けた県議会事務局総務課長は、県議会が本件条例にいう実施機関でないことから受理できないとして、平成八年九月二日、原告に右開示請求書を返却した。

生活文化政策課長から、本件文書3の開示請求書の送付を受けた、県警察本部警務部総務課長、会計課長及び警務課長は、右開示請求書を受理できない旨の通知書を添付し、当該開示請求書を生活文化政策課長に返送し、同課長は、平成八年九月二日、原告に右通知書の写しを手渡し、開示請求書を返却した。三重県情報公開事務取扱要綱(以下「事務取扱要綱」という。)第四の2によれば、「公文書が不存在の場合の取扱い」として、「受付後、請求された公文書が不存在であることが明らかになった場合は、速やかに、請求者に当該公文書が不存在であり、請求書を受理できない旨を連絡し、請求書の取下げを要請することとし、取下げがない場合は、請求書を返却する旨通知する」と定められていることから、被告は、本件開示請求書を返却したものであって、非開示処分をしたものではない。

右経緯からも明らかなように、本件文書2及び本件文書3について、被告が非開示処分を行った事実はない。

(3) 行政処分が不存在の場合、不作為の違法確認訴訟など別途の方法により争う途がないとはいえないから、不受理は非開示処分に含まれるものと考える必然性はない。

(4) 以上のことから、被告が、原告に対し、本件各文書の非開示処分を行った事実はなく、非開示処分の取消しを求める原告の本訴各請求は、前提を欠くものであって却下を免れない。

2  争点2(公文書該当性の有無)について

(一) 原告の主張

(1) 本件条例二条二項の「職務上作成し、または取得し」とは、法的権限に基づき作成し、または取得しと解すべきである。

地方議会の議員及び議会事務局の職員の出張費その他必要な費用は、県の予算から支弁される(地方自治法二〇三条三項、二〇四条一項)。

県の予算については、「予算を定めること」の議決は県議会の権限であるが(地方自治法九六条一項二号)、予算の調整権及び執行権は被告に専属するものであり(地方自治法一四九条二号、二二〇条一項)、議会及び他の執行機関は予算の調整権及び執行権を一切有しない(地方自治法一一二条一項、一八〇条の六第一号)。

地方自治法一八〇条の二において、委員会に普通地方公共団体の長の権限の一部を委任する旨の規定があるが、県議会に委任する規定はないため、被告の予算執行権を県議会に委任することはできない。三重県の「委員会などの職員に対する知事の権限の一部委任に関する規則」にも、県議会に予算執行権を委任する規定はない。

そのため、県議会事務局が県議会の予算執行に関する文書(支出負担行為書、支出命令書など)を作成しているのは、被告である知事部局の吏員として行っているに過ぎない。すなわち、法一五三条一項は、「普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部を当該地方公共団体の吏員に委任し、または、これをして臨時に代理させることができる。」と定めているところ、吏員とは、普通地方公共団体の長の補助職員であり、委員会や県議会の補助職員は含まれない。仮に、法一五三条により、県議会事務局に予算執行権を委任できると解釈できるとしても、県議会事務局の職員が吏員の身分を有する必要があり、県議会事務局の職員と知事部局の吏員を兼務しなければならない。したがって、県議会事務局の職員がこれらの予算執行に関する文書を作成し保管しているとしても、被告の吏員として被告のために作成・保管していると解さざるを得ない。すなわち、地方議会の議員及び議会事務局の職員の出張費その他議会の予算についての調整権及び執行権も、被告に専属する。地方自治法上、県議会には予算執行権を委任する規定はなく、県議会の職員が予算執行文書を作成しているのは、知事部局の職員に併任されているから可能となるのである。

したがって、本件文書1は、県議会(議員及び職員)の食糧費の支出命令書であり、本件文書2は、県議会の県政調査研究費交付金の公費支出に関する書面であるが、いずれも実施機関である被告の職員が職務上作成し、管理するものであり、本件条例二条二項の公文書として被告が実施機関として開示すべき文書である。

これに対し、県警察本部は、地方自治法一八〇条の二、「委員会等の職員に対する知事の権限の一部委任に関する規則」により、予算執行に関する文書の作成が適法に委任されているので、これらの文書を作成する権限は有する。

(2) 本件条例二条二項の「管理している」とは、法的権限に基づき管理していると解すべきところ、三重県会計規則一六五条は「出納長及び出納員は、収入及び支出の証拠書類等を年度別、種類ごとに整理して編てつしなければならない。」と定めているのであるから、収入支出に関する証拠書類は、出納長が法的権限により保管していることになり、出納長は知事部局にあるから、被告が実施機関となる。

① 支出命令とは、地方公共団体の長が支出負担行為に基づき当該団体の歳出について公金を支出しようとする場合に、出納長に対して支出を命令することをいう(地方自治法二三二条の四第一項)。地方公共団体の支出については、予算の適正な執行を確保するため、支出命令をする権限と現金を出納する権限とが分離されており、支出命令をする権限は地方公共団体の長に、現金を出納する権限は出納機関たる出納長にそれぞれ属している。出納長は支出命令を受けた場合においては、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ、支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ、支出することはできない(同条二項)。また、出納長は、決算を調整し、これを知事に提出しなければならない(同法一七〇条二項七号)。

以上のとおり、支出命令書(その添付書類を含む)は、出納長に対する命令として作成されるものであり、命令された支出が適法かどうか、予算に違反していないかどうかにつき、支出の時点で支出命令書などにより、審査するのはもちろん、支出後もこの支出に間違いがなかったことを点検するために必要であり、さらに「決算を調整」するにもなくてはならない書類であるから、これらは出納長において保管することが必要不可欠である。

② 三重県会計規則一六五条は「出納長及び出納員は、収入及び支出の証拠書類等を年度別、種類ごとに整理して編てつしなければならない。」と定めているところ、出納局総務課長が作成した会計規則運用方針(以下「運用方針」という。)の一六五条関係第四項本文は「証拠書類等の編てつとは、証拠書類等を編てつし、保管することをいう。」と規定しているから、三重県会計規則によれば、出納長及び出納員が収入支出の証拠書類(支出命令書や請求書、領収書類は支出の証拠書類である。)の管理をしなければならないことになる。

そして、三重県では、平成八年三月以前は、出納長が収入及び支出の証拠書類のすべてを編てつ保管していたが、平成八年四月一日から、出納局総務課長により、運用方針一六五条関係の四項に「ただし、課所の長からの申し出により、出納長(員)が認めた証拠書類等については、課所で編てつし、保管させることができるものとする。」との規定が加えられたため、同年四月以降は、課所の長の申し出により、出納長が認めた証拠書類につき、課所に編てつ、保管させている。しかしながら、被告がその権限により三重県会計規則で「出納長が、証拠書類を編てつしなければならない。」と定めてあるのに、出納局総務課長が運用方針で「課所で編てつし、保管させることができる」と定めても、法的意味で「課所が編てつ保管」していることにはならない。したがって、運用方針で「編てつし、保管させることができる」という意味は、あくまでも事実上または出納長のために保管していると解する外はなく、法的には三重県会計規則上は収入支出の証拠書類は出納長が編てつし、保管しているのである。

また、三重県会計規則は、地方自治法一五条による規則制定権に基づき被告が制定したものであり、「三重県議会事務局規程」、「三重県警察の文書に関する訓令」は、いずれも訓令であり、三重県会計規則に反することはできない。また、これらの文書保存管理規程等には、管理すべき文書を特定しているわけではなく、収入及び支出の証拠書類を管理すべきとは規定されていない。したがって、収入及び支出に関する証拠書類が、これらの文書保存管理規程等により課所において保管しているとしても、それらの書類は、三重県会計規則により、出納長のために(出納長の補助として)管理していると解する外なく、三重県会計規則上は、出納長が管理しているのである。そうでなければ、三重県会計規則に違反して県議会や県警察本部が管理していることになる。

したがって、現在も「収入及び支出に関する証拠書類」は、法的には出納長が保管していると解すべきである。

(3) 元々、予算執行権が被告の専権である以上、被告が、予算執行権の一部を委任し、県議会事務局や県警察本部が事実上保管していたとしても、被告は、予算執行に関し専権を有し、委任された職員を指揮監督する権利と義務を有するのであるから、被告は、いつでも委任した事務吏員に対し、文書を引き渡すよう要求できるはずであり、法的には、予算執行に関する文書はすべて被告の責任で作成し、保管する公文書であると解すべきである。また、普通地方公共団体の長は、自らの専権である予算執行権に関わるすべての証拠及び公文書を保管する権限を総括的に有するものである。他の執行機関が必要に応じて保管することはかまわないが、被告の保管権を侵すことはできないはずであり、他の執行機関が事実上保管しているとしても、法的には、被告と他の執行機関との共同保管と解すべきである。被告が、予算執行権の専権を有し、指揮監督権がある限り、そのように解するほかない。

(4) 支出命令書及びその証拠書類は、決算を調整する職責を有し(地方自治法一七〇条二項七号)、支出が適正であったかどうかを点検する職責を有する出納長が保管することは必要不可欠である。各課書(県議会、県警察本部など)において利用する必要性はほとんどない。県議会や県公安委員会は、施策の立案や事業の遂行のために支出命令書やその証拠書類(請求書や領収書など)などの添付書類を利用する可能性はなく、管理を必要としない。これらの証拠書類を将来利用するのは、出納長であり、監査委員である。

(5) 結論

① 県議会は、地方自治法の規定上、被告から予算執行に関する文書の作成権限を委任される根拠がなく、三重県会計規則上、収入及び支出に関する証拠書類の編てつ管理は出納長が行うことになっており、管理の権限もない。したがって、本件文書1及び本件文書2は、被告である知事部局の職に併任された実施機関である被告を補助執行する県議会事務局の職員が被告を補助執行して作成し、管理している文書であり、本件条例二条二項の公文書として実施機関たる被告が公開すべき文書である。

よって、本件文書1及び本件文書2を開示しないとの処分は、本件条例二条二項の規定の解釈を誤った違法なものであり、取消されるべきである。

② 同様に、本件文書3は、実施機関である被告が管理するものであり、本件条例二条二項の公文書として、実施機関たる被告が開示すべき文書である。

よって、本件文書3を開示しないとの処分は、本件条例二条二項の規定の解釈を誤った違法なものであり、取消されるべきである。

(二) 被告の反論

本件条例二条二項は、情報公開の対象となる公文書の要件として、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び磁気テープ(電子計算機磁気ファイルを含む。)であること、文書、図画及び写真については、決裁又は供覧の手続を終えたものであること、実施機関において管理しているものであることと規定しており、かつ、本件条例の対象となる公文書として認められるためには、右の要件の全てを一体として充足する必要がある。しかしながら、本件各文書は、実施機関から除かれている県警察本部、県議会事務局の職員が作成又は取得し、これらの機関で管理しているものであるから、本件条例二条二項にいう「公文書」に該当しない。

(1) 本件条例二条二項は、本件の開示請求がなされた当時、情報公開の実施機関として、一〇の機関を制限列挙していたが、県議会及び県公安委員会は含まれていなかった。そして、県公安委員会が実施機関から除かれている以上、県公安委員会の管理の下にある県警察本部も当然、実施機関には該当しない。

(2)① 実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書でなければならないのであるから、実施機関でない県議会や県警察本部の職員が作成又は取得した文書は当然除外されることとなる。そして、本件条例二条二項にいう「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は取得したという意味であり、また、「職務上」とは、実施機関の職員が法律、命令、条例、規則、規程、通達等により与えられた任務又は権限をその範囲内において処理することをいうのであって、補助執行とか委任とかの法的評価を加えて判断するのではなく、現実に実施機関の職員が自己の職務の範囲内において事実上作成し、又は取得したか否かで判断がなされ、文書に関して自ら法律上の作成権限又は取得権限を有するか否かを問わない。それゆえ、三重県が作成した三重県情報公開条例解釈運用基準(以下「解釈運用基準」という。)においても「職務には、国から実施機関に機関委任された事務及び地方自治法一八〇条の二又は一八〇条の七の規定により、他の実施機関から委任を受け、又は他の実施機関の補助執行として処理している事務を含む」とされ、逆に、実施機関の職員であっても、「地方公務員等共済組合法一八条などの規定により他の法人その他の団体の事務に従事している場合の当該事務は(本件条例上の)職務には当たらない」とされている。したがって、地方自治法上、予算の執行権が被告に専属することをもって、本件各文書の作成、保管に係る権限が被告にあるとしたり、県議会事務局及び県警察本部の職員が「知事部局の事務吏員」として本件各文書を作成、保管しているとすることはできない。

② 前記のような「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」という要件の意義に照らし、以下のとおり、本件各文書が本件条例二条二項にいう「公文書」に当たらないことは明らかである。

先ず、県警察本部に係る予算の執行については、地方自治法一八〇条の二の規定に基づき、被告から県警察本部長又は県警察本部警務部会計課長にその権限が委任され(「委員会等の職員に対する知事の権限の一部委任等に関する規則」又は「三重県会計規則」及び「三重県予算調製及び執行規則」)、受任者たる県警察本部長又は県警察本部警務部会計課長の職務として執行されている。すなわち、県警察本部にかかる予算の執行権は、被告から県警察本部長又は県警察本部警務部会計課長に委任されており、本件文書3は、実施機関でない県警察本部の職員が自己の名と責任において、作成又は取得し、管理するものであるから、本件条例二条二項にいう「公文書」に当たらないことは明らかである。

これに対し、県議会に係る予算の執行については、被告は、県議会事務局の職員を知事部局の職員に併任し(これは地方公務員法一七条一項に基づく発令である。)、職務命令(地方公務員法三二条)として当該予算の執行について専決の方法による事務の処理を命じている。すなわち、被告の権限を委任する場合は、それが権限の所在の変更を意味する(対外的な影響が生ずる)ものであるところから、地方自治法一五条に基づく規則が制定されているが、権限を被告に留保したまま、意思決定の権限を補助機関又は他の執行機関の職員に与える場合(この方法を「専決」又は「代決」という。)は、職務命令により行われるのである。なお、職員一般を対象として定型的に行う職務命令は訓令という形式によるのが通例であり、予算の執行についても、それが執行機関の職員に対するものである場合については訓令である決裁規程で定めている。ただ、県議会事務局の職員については、たとえ併任されているとはいえ、その併任は議決機関に属する職員に対して形式的な法律上の必要に基づいてなされているものに過ぎないことから、執行機関の職員に対する一般的な職務命令(決裁規程)の中に含めることなく、それとは別個に、該当職員に対して専決による事務処理を命じているに過ぎず、それは執行機関の職員による補助執行と同一の性質を有するものである。

仮に、本件文書1及び本件文書2のうち県議会の予算の執行にかかる文書が含まれ、県の予算の執行権は被告に専属するとしても、被告は県議会に関する歳出予算の執行事務については、県議会事務局長に補助執行させている。すなわち、右事務関し、県議会事務局の職員を知事部局の職員に併任させ、同職員が、同事務を行うという取扱いをしているのである。この補助執行の制度は、同じ行政機関内部の補助執行とは異なり、県議会などの知事部局から組織上独立した機関の予算の執行については、知事部局の職員に併任させることによって、県議会の支出も、被告がしたのと同一の行政法上の効果を発生させ、予算の統一性を確保するという行政上の目的を達成するための各機関相互の協力関係保持の法的手段であり、補助執行によって、県議会事務局の職員が知事部局の職員となるわけではない。

以上のように、三重県の予算の執行は、被告が担任する事務の一つであるが、被告から組織上独立した県公安委員会及び県議会の予算執行については、行政法上予算の統一性を確保するため委任ないし補助執行という法的手段が取られており、これにより、県議会の支出も県公安委員会の支出も、被告がしたのと同一の行政法上の効果を発生することになるのである。

県議会及び県公安委員会は長から独立した機関であり、それらが予算の執行を必要とする事務や事業を実施することを決定した場合は、長は、それに必要な予算の執行を拒否できない。右の委任や補助執行というのは、このような予算の執行についての性質を前提として、予算の執行者と当該予算を必要とする事務事業についての意思決定権者とを一致させるための法技術に過ぎず、このような委任又は補助執行という形式が取られていることのみをもって、本件各文書の作成者が被告であるとか、県公安委員会や県議会は被告のために補助的に管理しているとすることはできない。

(3) 本件条例二条二項にいう「公文書」といえるためには、決裁又は供覧の手続が終了していることが必要であるが、本件各文書はいずれも現実に決裁しているのは実施機関でない県議会ないし県警察本部であって、実施機関たる被告が決裁しているものではないのであるから、この要件を満たさず、本件条例の適用を受ける公文書ではない。

(4) 本件各文書は、以下のとおり、実施機関以外の管理主体に係るものであり、本件条例対象の公文書の要件を欠くものである。

① 「実施機関において管理している」とは、実施機関において定めている文書整理保存規程等にしたがって管理されている公文書をいうところ、本件各文書は、いずれも実施機関でない県議会又は県警察本部がそれぞれの独自の権限で定めた文書管理規程により管理しているものであり、実施機関たる被告が定めた文書管理規程により管理しているものではないから、この要件を満たすものではない。

被告は、当該地方公共団体の事務を管理し、執行することとされ、公文書類を保管することもその事務に属する(地方自治法一四八条一項、一四九条八号)ものとされている。したがって、被告は、法令に特別の定めがない限り、当該事務の執行権を有するか否かに関わらず、三重県の公文書類一般についての保管事務を担任することになるのであるが、被告以外の機関においても、その事務処理に必要な公文書類、「例えば、会計事務に関する各種の受取証書や出納関係帳簿のごとき(中略)ものについては、当該機関の事務処理に必要な限度において、それぞれの機関において保管することを妨げるものではない。」と解されている。これは、行政機関等が、法令の規定による権限に係る文書類に限らず、現に担任する事務に係る文書類を必要とする期間、保管、管理する権限を有していることであるから、本件各文書の保管、管理については当該事務処理を行った県議会又は県警察本部において当然に行うことができるのである。本来、公文書の保管、管理は、将来における利用等の行政上の便宜等を考慮してなされるものであり、特に、本件各文書のような予算の執行に関するものについては、当該執行機関等における施策の立案、予算要求、事務の遂行等の資料として大きな意味を有することから、現実にもそれぞれの機関ごとに定められた文書管理規程にしたがって、当該執行機関の手元に保管されている。

また、この「管理」は、当該公文書に関して作成権限を有するとか、それについて指揮監督権を有するという観念的抽象的な権限に着目して定められたものではなく、実施機関において処理されている事務そのものに着目して定められているものであり、本件条例は、現実に当該事務を行い、実施機関の手元に保管管理されている公文書を公開することについての要件や手続等を定めたものである。本件文書1及び本件文書2は、いずれも、県議会の権限に基づいて制定された三重県議会事務局規程(昭和三九年七月一七日、三重県議会訓令第一号)に基づき、県議会事務局が現実に保管、管理している文書であり、本件文書3は、いずれも、三重県警察の文書に関する訓令(昭和四七年七月一一日、三重県警察本部訓令第一一号)に基づき、県警察本部が、現実に保管、管理している文書であって、実施機関である被告が文書整理保存規程、三重県文書規程に基づき現実に保管、管理しているものではないことから、本件条例の公文書には該当しない。

② 地方自治法上、被告は、当該年度の歳入歳出予算の執行の結果である決算について最終的責任を負い、これを議会の認定に付するものとされており(地方自治法一四九条四号、二三三条三項)、他方、出納長は、決算を調製し、これを被告に提出する事務をつかさどるものとされている(地方自治法一七〇条二項七号)が、地方自治法二三三条一項の規定は、出納長が決算を被告に提出することに関して具体的な内容を定めたものであって、出納長が支出命令等の書類を保管することを定めたものではない。すなわち、被告は、県議会の認定に付するための前提として、決算に関する書類を収集する必要があるが、地方自治法二三三条一項の規定は、出納長が「歳入歳出決算書(これを「決算」という。)」及びその説明として作成した書類(「歳入歳出決算事項別明細書」等地方自治法施行令一六六条二項に規定する書類)とともに、出納長において保持していた証書類があれば、これを被告に引き渡す必要があるという当然のことを規定したに過ぎないのであって、証書類に該当するすべてについて、出納長が保持しないものまでも被告に提出することを定めたものではないし、決算調製や調書の作成提出の前提として支出命令書等の書類について出納長が管理することを意味するものでもない。このことは、証書類には契約書、見積書など、支出命令の審査時に確認すれば足りることから出納長において保持する必要のないものが存在することからも明らかであり、実際にも支出関係だけでも四一万件(平成九年度実績)にも上る証書類を一括して被告に提出することはない。なお、本県においては、決算の調製に必要な「歳入歳出決算書」及び「歳入歳出決算事項別明細書」等は、実務上、「財務システム」により集計調製されているのであって、直接に支出命令書等の支出証拠書類から計数等をつみあげて調製するものではないことから、支出負担行為の確認、支出命令の審査等の出納事務手続が終了すれば、それらの書類を出納局において保管しておく必要はない。

③ 三重県会計規則一六五条は、「出納長及び出納員は、収入及び支出の証拠書類等を年度別、種類ごとに整理して編てつしなければならない。」と規定しているが、ここにいう「編てつ」とは、「編綴」すなわち書類を整理して「綴じ合わせる」ことを意味する用語であって、「保管」の意味を含むものではない。三重県会計規則一六五条は、地方自治法上の会計事務として出納長又は出納員による証拠書類の「編てつ」は根拠付けてはいても、当該証拠書類の「保管」まで根拠付けている規定ではない。

(5) 最後に、以上の本件条例の適用を受ける公文書の三要件は、それぞれに意味を有することはもちろん、最終的には一体として理解されなければならない。すなわち、本件条例の実施機関は、その職員が自ら作成又は取得し、次いで決裁又は供覧し、さらに自ら管理している公文書のみを対象とし、そうした文書が存在して初めて開示非開示の判断をなし得る。しかしながら、本件各文書は、実施機関ではない県議会及び県警察本部が職務上作成し、又は、取得した文書であり、その独自の権限に基づき制定した三重県議会事務局規程及び三重県警察の文書に関する訓令により各機関が現実に保管、管理しているものであって、この前提を欠くことから、被告においては、本件各文書は存在しないこととなり、「不受理」とせざるを得ない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(乙一ないし四、五の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(一) 原告は、三重県情報公開条例施行規則二条一項に定める開示請求書に、開示を請求する公文書として県議会事務局総務課等の平成八年四月以後六月末までの食糧費に関する資料(支出命令書及び添付書類)と記載し、宛先欄に被告、三重県企業庁、三重県教育委員会、県議会と併記し、その他本件条例六条及び三重県情報公開条例施行規則二条に定める事項を記載した上、平成八年七月一一日、実施機関である被告に対し、開示請求書を提出し、本件文書1に関する開示請求を行った。被告は、同日、右開示請求書を生活文化政策課において受け付けたが、その後、開示請求書を県議会に送付した。県議会事務局総務課長は、「このことについて、平成八年七月一一日付で開示請求書の提出がありましたが、実施機関ではありません。したがって、当該請求書は受理することができませんので、お返しします。」と記載した「公文書の開示請求について(回答)」と題する書面を添付した上、同月二二日付けで右開示請求書を原告に返却した。

(二) 原告は、三重県情報公開条例施行規則二条一項に定める開示請求書に、開示を請求する公文書として県警察警務部総務課、会計課、警務課の平成七年四月から平成八年六月までの(中略)食糧費の支出命令書、県議会議員の県政調査研究費の公費支出に関する一切の書類等を記載し、宛先欄に被告、監査委員、教育委員会、企業庁長と併記し、その他本件条例六条及び三重県情報公開条例施行規則二条に定める事項を記載した上、平成八年八月一九日、実施機関である被告に対し、開示請求書を提出し、本件文書2及び本件文書3に関する公文書開示請求を行った。

被告は、同日、右開示請求書を生活文化政策課長において受け付けたが、生活文化政策課長は、原告の開示請求書の記載内容から、本件文書2及び本件文書3が、それぞれ県議会及び県警察本部の管理するものであると判断し、右開示請求書を県議会及び県警察本部に送付した。

生活文化政策課長から、本件文書2の開示請求書の送付を受けた県議会事務局総務課長は、「このことについて、平成八年八月一九日付で開示請求書の提出がありましたが、実施機関ではありません。したがって、当該請求書は受理することができませんので、お返しします。」と記載した「公文書の開示請求について(回答)」と題する書面を添付した上、九月二日付けで右開示請求書を原告に返却した。

生活文化政策課長から、本件文書3の開示請求書の送付を受けた県警察本部総務課長、会計課長及び警務課長は、右開示請求書を受理できない旨の通知書を添付し、当該開示請求書を生活文化政策課長に返送し、同課長は、平成八年九月二日、原告に右通知書の写しとともに、「平成八年八月一九日付で開示請求書の提出がありましたが、請求内容のうち県警察本部警務部総務課、会計課、警務課に係る部分については県警察本部警務部総務課長、会計課長、警務課長から当職あてに、開示請求書を受理できない旨の通知がありましたので、その写しを送付します。」と記載した「公文書の開示請求について(通知)」と題する書面を手渡した上、原告に右開示請求書を返却した。

2  本件条例六条は、開示請求書を実施機関に提出しなければならないと規定しているところ、前記認定のとおり、原告はいずれの開示請求書も実施機関たる被告に提出していること、本件文書1に関する開示請求書の宛先として併記されていた県議会等の記載は、同条(2)に定める開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項として記載されたものと善解することができることに照らせば、原告は、被告に対し、本件各文書の開示請求を行ったものと認めるのが相当である。

そこで、被告が、本件条例に基づく本件各文書の開示請求に対し非開示処分を行ったものといえるか否かについて検討する。

本件条例は、五条において、県民の公文書開示請求権を定めるとともに、七条一項において、請求書を受理したときは、請求書を受理した日から起算して一五日以内に、開示の請求に係る公文書を開示する旨又は開示しない旨の決定をしなければならないと規定し、県民からの開示請求に対する実施機関の応答義務を定めている。右規定の趣旨は、実施機関は、開示請求を受けたときは、これを放置することなく、許否の態度を明示すべきことを義務付けるものであって、請求の対象である公文書が存在しない場合は不受理とする取扱いとなっているが、本件のように公文書の存否が問題どなる事案においては、公文書の存否は、開示又は非開示の決定に当たり、その前提として判断すべき事項と解すべきである。

本件においては、前記認定のとおり、被告は本件各開示請求を受け、これを県議会及び県警察本部へ送付し、結局は開示請求書を原告に返還する措置に至らしめたのであるから、被告は、本件各開示請求に対して、これを拒絶する態度を表明したものとして、非開示処分を行ったものと認めるのが相当である。

二  争点2について

1  証拠(甲一、二、一二、一四、一六、一七の1及び2、一八の1及び2、一九の1及び2、二〇、乙六、八、一二、二一ないし二五、二七ないし三〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件各文書に関し以下の各事実が認められる。

(一) 県議会及び県警察本部おける食糧費の予算執行のシステム及びこれに関連して作成あるいは取得される文書は、以下のとおりである。

(1) 食糧費に関する事務は歳出予算の執行に関する事務であるところ、予算の執行権は被告に専属するものであり(地方自治法一四九条二号、二二〇条一項)、県議会及び被告以外の執行機関は予算の調整権及び執行権を一切有しない(地方自治法一一二条一項、一八〇条の六第一号)ことから、県議会に関しては、被告は、支出負担行為については県議会事務局長を知事部局の吏員に併任して専決の方法により補助執行させており、地方自治法二三二条の四に定める支出命令については県議会事務局の課長を知事部局の吏員に併任し、三重県会計規則八条二号により委任している。これに対して、県警察本部に関しては、知事部局の吏員に併任することなく、支出負担行為については地方自治法一八〇条の二及びこれに基づく委員会等の職員に対する知事の権限の一部委任等に関する規則一条二項により県警察本部長に委任し、支出命令については三重県会計規則八条二号により県警察本部警務部会計課長に委任している。

(2) 食糧費を支出する必要が発生した場合は、県議会事務局職員、県警察本部職員が、相手方(業者)、単価等を記載した内訳書とともに食糧費執行伺を起案し、決裁権者である県議会事務局長、県警察本部長の決裁を受け(支出負担行為)、この際、決裁権者により、支出の具体的内容を記載した支出負担行為内訳及び支出負担行為書が作成される(三重県会計規則二六条)。

(3) 右決裁後、業者に発注し、業者から納品された物件等について、納品書を受領するとともに、県議会事務局職員、県警察本部職員がこれを検査し、その履行を確認し、支出負担行為書に履行確認済の旨を記録する(検収)。

(4) その後、業者(債権者)は、食糧費に関する請求書を送付し、これを県議会事務局職員、県警察本部職員が受領する。

(5) 前記の支出命令権者(三重県会計規則にいう課所の長)は、業者(債権者)から請求書の送付を受けたときは、支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえ、支出命令書により支出の決定を行い、直ちに、支出命令書を送付することにより出納長又は出納員に支出命令を行う(三重県会計規則二七条)。

(6) 出納長又は出納員は、支出命令に係る書類を受けたときは、支出命令が正当に発せられたものであること、支出負担行為が履行され債務が確定していること等について審査を行う(三重県会計規則二八条)。

(7) 右審査の後、出納長又は出納員は、債権者から口座振替による支払の申出があったときは、当該指定金融機関にその手続をさせる(三重県会計規則三六条)。

(8) 平成八年三月までは、支出負担行為書及び支出命令書並びにこれらの添付書類等の予算の執行に関わる書類は、出納局において保管されていた。これに対し、平成八年四月以降は、食糧費の支出が終わると、県議会事務局及び県警察本部の各課長が、出納長又は出納員から、当該支出命令に係る書類を受領し、県議会事務局においては三重県議会事務局規程により、県警察本部においては三重県警察の文書に関する訓令により、自らの会計に関する公文書を編てつして保管し、これらの書類を管理することとなった。平成八年四月前後において、予算執行に関わる書類の保管について変更が生じたのは、平成八年四月、三重県会計規則を所掌する出納局において出納局長名で運用方針一六五条関係に四項「証拠書類等の編てつとは、証拠書類等を編てつし、保管することをいう。ただし、課所の長からの申し出により、出納長(員)が認めた証拠書類等については、課所で編てつし、保管させることができるものとする。」が追加され、これに基づく運用が開始されたためである。

(二) 県議会事務局における県政調査研究費交付金の予算執行システムは、次のとおりである。

(1) 県政調査研究費交付金に関する事務は歳出予算の執行に関する事務であることから、食糧費の場合と同様に、被告は、支出負担行為ついては県議会事務局長を知事部局の吏員に併任して専決の方法により補助執行させており、支出命令については県議会事務局総務課長を知事部局の吏員に併任して委任している。

(2) 県議会の各会派の代表者は、三重県補助金等交付規則、県政調査研究費交付要綱に基づき、会派名、代表者名等を記載した県政調査研究費交付金の交付申請書を県議会事務局に提出する。

(3) 県議会事務局長は、右交付申請が右規則要綱に適合しているか否かを検討し、適合している場合は、県政調査研究費交付金の交付決定を行い(支出負担行為)、この際支出負担行為書及び支出負担行為内訳を作成するとともに、各会派の代表者に対し、交付決定通知を渡す。

(4) 右交付決定の通知を受けた各会派の代表者は、県議会事務局に対し、交付金請求書を提出する。

(5) 交付金請求書を受領した県議会事務局総務課長は、支出命令書により、支出の決定を行い、直ちに出納長に支出命令を行う。

(6) 出納長は、支出命令が正当に発せられたものであることについて審査を行う。

(7) 右審査の後、出納長は、各会派の代表者の預金口座に振り込む方法により支払う。

(8) 各会派の代表者は、規則要綱にのっとり、会派活動のための経費として、交付金を費消する。

(9) 県政調査研究費は、各四半期ごとに支払われるが、事業終了後、各会派代表者は、県議会事務局に実績報告書、精算報告書を提出する。

(10) 報告を受けた県議会事務局長は、報告書の内容を審査し、適切であれば、額の確定を行い、これを各会派の代表者に対し通知する(確定通知書)。

(11) 額の確定により、県政調査研究費交付金の予算執行は終了する。

(12) 食糧費の場合と同様、県議会事務局は、出納長又は出納員から、県政調査研究費交付金の当該支出命令に係る書類を受領し、三重県議会事務局規程により自らの会計に関する公文書を編てつして保管し、これらの書類を管理している。

2  そこで、先ず、本件各文書が、本件条例二条二項の「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」文書等に当たるかについて検討する。

(一) 地方自治法一七二条は被告の補助機関として「普通地方公共団体に吏員その他の職員を置く。」旨規定し、同法一五三条一項は「普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任し、又はこれをして臨時に代理させることができる。」旨規定しているところ、これらの規定に基づいて、被告は、前記認定のとおり、食糧費及び県政調査研究費交付金とも、県議会に関しては県議会事務局長を知事部局の吏員として併任のうえ、支出負担行為を補助執行させ、地方自治法二三二条の四に定める支出命令については、県議会事務局の課の長を知事部局の吏員として併任のうえ、三重県会計規則八条二号によりこれを委任している。そして、地方自治法一五四条は、「普通地方公共団体の長はその補助機関たる職員を指揮監督する。」旨規定しているから、県議会事務局長が知事部局の吏員として行う支出負担行為の決裁及び県議会総務課長が知事部局の吏員として行う支出命令書の決裁並びにこれに伴う文書の取得は、いずれも被告の職員が職務上行う事務に他ならない。

したがって、県議会事務局長が知事部局の吏員として作成する県政調査研究費交付金に関する支出負担行為書並びに県議会総務課長が知事部局の吏員として作成する食糧費及び県政調査研究費交付金に関する支出命令書は、いずれも知事部局の吏員すなわち被告の職員が職務上の権限により作成する文書であり、これに伴って取得する文書も被告の職員が職務上の権限により取得する文書であると認めるのが相当である。

被告は、本件条例にいう職務には委任を受け、又は補助執行として処理している事務を含むと解されることから、本件各文書は実施機関ではない県議会の職員が職務上作成する文書であって、被告の職員が職務上作成している文書ではないと主張するが、地方自治法上被告とは別個の機関である県議会の職員を知事部局の吏員に併任させているのは、県議会の職員の地位に基づいては予算の執行に関する権限を委任あるいは補助執行の方法により行使させることはできないからであって、県議会の職員がその地位に基づいて委任を受けあるいは補助執行をしているものではないから、県議会の職員が知事部局の吏員たる地位に基づいて作成する支出負担行為書及び支出命令書が、実施機関の職員が職務上作成する文書であることを否定することはできない。

(二) これに対し、県公安委員会の下にある県警察本部については、地方自治法一八〇条の二の規定により「普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部を、(中略)普通地方公共団体の委員会、委員会の委員長、委員若しくはこれらの執行機関の事務を補助する職員若しくはこれらの執行機関の事務を補助する職員若しくはこれらの執行機関の管理に属する機関の職員に委任し、又はこれらの執行機関の事務を補助する職員若しくはこれらの執行機関の管理に属する機関の職員をして補助執行させることができる。」ことから、知事部局の吏員として併任することなく、支出負担行為は「委員会等の職員に対する知事の権限の一部委任等に関する規則」二条一項により県警察本部長に委任されており、食糧費に関する支出負担行為書は受任者たる県警察本部長が受任された権限に基づいて作成されており、食糧費に関する支出命令は、三重県会計規則八条二号により県警察本部の課の長に委任され、支出命令書は受任された権限に基づいて作成されている。

したがって、知事部局の吏員としての併任のない県警察本部長ないし県警察本部の課の長は、県公安委員会の職員としての地位を有するにすぎず、実施機関である知事部局の職員としての地位を有しないから、本件条例二条二項にいう「実施機関の職員」に当たらず、その作成し、あるいは、取得した文書も「実施機関の職員」が職務上作成あるいは取得した文書には該当しない。

3  次に、本件各文書が、本件条例二条二項の「決裁又は供覧の手続を終えたもの」といえるかについて検討する。

本件条例にいう「決裁」とは事務の処理について最終的にその意思を決定することをいう[三重県文書規程二条(8)、三重県事務決裁及び委任規則(昭和六二年三月三一日三重県規則第二二号)二条二号参照]ところ、県政調査研究費交付金の支出負担行為は、知事部局の吏員たる地位に立つ決定権者である県議会事務局長によって最終的な決定がなされている。

また、支出命令は、知事部局の吏員たる地位に立つ決定権者である県議会事務局総務課長によって最終的な決定がなされている。

したがって、本件文書1及び本件文書2は、いずれも被告機関において「決裁(中略)の手続を終えたもの」である。

4  最後に、本件各文書が、本件条例二条二項にいう「実施機関において管理しているもの」といえるか否かについて検討する。

本件条例が開示の対象となる公文書を実施機関において管理しているものに限定しているのは、実施機関が開示請求を受けたときは迅速にこれに対応すべきところ(本件条例七条、事務取扱要綱第四の2)、実施機関が当該公文書を直接の支配下に置いている場合でなければ、当該公文書を開示することができないからである。

したがって、右にいう「実施機関において管理しているもの」とは「現実に実施機関において当該機関の文書管理規定等によって管理しているもの」をいうと解すべきである。そうすると、右にいう「管理」は管理権限の所在とは必ずしも一致するわけではない。

この点、原告は、本件条例二条二項の「管理している」とは、法的権限に基づき管理していると解すべきであると主張するが、地方自治法一四九条八号が公文書の保管についての事務の普通地方公共団体の長の一般的な権限規定をおいていること、県議会あるいは知事部局以外の執行機関が、それぞれ独自の文書管理の規定を設けて公文書を管理していることを前提に、本件条例が情報公開の実施機関を限定列挙するとともに、開示の対象となる公文書の要件として「実施機関が管理していること」を掲げていること、単に「実施機関が管理していること」とするのみで、権限の有無等を前提とした文言を用いていないことを踏まえれば、本件条例二条二項にいう、文書の管理の意義を、文書の管理権限の帰属という観点から理解するのは相当ではない。

そこで、検討するに、地方自治法一七〇条一項は「法律又はこれに基づく政令に特別の定めがある場合を除くほか、出納長及び収入役は、当該地方公共団体の会計事務をつかさどる。」と規定し、被告制定の三重県会計規則(昭和三九年三月三一日三重県規則第一五号)一六五条は「出納長及び出納員は、収入及び支出の証拠書類等を年度別、種類ごとに整理して編てつしなければならない。」と定めていることなどに照らせば、出納長において支出手続を終了したときは、支出の証拠書類等(支出負担行為書及び支出命令書並びにこれらの添付書類はこれに含まれる。)は本来は出納長において保管することが想定されているものと理解される。

ところが、前記認定のとおり、三重県においては、平成八年三月以前には出納長がこれを管理していたところ、出納局長発出の運用方針一六五条関係の四項に「証拠書類等の編てつとは、証拠書類等を編てつし、保管することをいう。ただし、課所の長からの申し出により、出納長が認めた証拠書類等については、課所で編てつし、保管させることができるものとする。」との規定が加えられたため、平成八年四月一日以降は、右規定により、支出終了後においては、県議会に関する証拠書類等は三重県議会事務局規程により議会事務局の課長において、県警察本部に関する証拠書類等は三重県警察の文書に関する訓令により県警察本部の課長において、それぞれ保管されている実状にある。

これに対し、被告は、前記のとおり、三重県文書規程(昭和六三年三月二五日三重県訓令第一号)、三重県文書整理保存規程(昭和六一年七月一日三重県訓令第八号)を定めて公文書の管理を行っているところ、両規程はいずれも知事部局における文書の保存管理の方法等を定めた規程であって、県議会の職員や他の執行機関の職員の地位と併任している知事部局の吏員が文書を保存管理することを想定している規程とは解されないから、県議会あるいは県警察本部が、それぞれの機関の文書の保管管理に関する規定に基づいて、現実に保管、管理している本件各文書については、被告が被告の文書管理の規程によって管理しているものと認めることはできない。

右の事実によれば、本件開示請求の時点においては、本件各文書は県議会又は県警察本部において現に管理しており、被告はこれについて現実に管理をしていなかったのであるから、本件各文書は「実施機関において管理しているもの」には該当しない。

もっとも、被告が本件各文書を県議会又は県警察本部から取り戻して管理を回復することはできなくはないが、そのような方法は迂遠であって文書開示の迅速性に沿わず、かつ、実施機関に負担をかけることにもなるから、これを現実の管理ということはできない。

5  以上のとおりであって、本件各文書は本件条例二条二項にいう公文書には該当しないものであるから、被告の本件非開示処分はいずれも違法ということはできない。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これらを棄却するものとする。

(裁判長裁判官山川悦男 裁判官新堀亮一 裁判官藤井聖悟)

別紙文書目録〈省略〉

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